箏曲「夏の曲」~夏をテーマにした古典曲

作品紹介

箏曲で夏にぴったりの曲というと、吉沢検校作曲の「夏の曲」が代表ではないでしょうか。箏曲の古典曲で春や秋の曲は多いのですが、夏をテーマにした曲はなぜか少な目です。その中でひときわ知名度が高く、演奏機会も多いのがこの曲でしょう。

今回は、暑い夏を箏の音色で少しでも涼しくできればという思いでこの曲を紹介させていただきます。

「夏の曲」は箏の2部合奏に乗せて4首の和歌を歌う名曲です。作曲者は、名古屋出身で幕末に活動した吉沢検校(1808-72)です。


吉沢検校は、『古今和歌集』を題材に「春の曲」「夏の曲」「秋の曲」「冬の曲」の4曲を作曲し、これは「古今組」と呼ばれています。吉沢検校は京都の光崎検校と並び、幕末の箏曲の最先端を行っていた人物で、他に、「千鳥の曲」も有名です。

「古今組」は、当初、箏2面で歌を中心とした作品として作曲されましたが、のちに京都の松阪春栄という箏曲家が中間部分に長い楽器のみの部分(手事)を作曲し、技巧を凝らした華麗な作品に仕上がりました。

歌詞は、『古今和歌集』から採られた次の4首です。

いそのかみふるき都のほととぎす声ばかりこそ昔なりけれ
夏山に恋しき人や入りにけむ声ふりたててなく郭公
蓮葉の濁りにしまぬ心もて何かは露を玉とあざむく
夏と秋と行きかふ空のかよいぢはかたへすずしき風や吹くらむ

『古今和歌集』より

調弦は新しく考案された「古今調子」で、基本の平調子から二を1オクターブ上に上げて七と同音にし、四と九は1音高めます。最低音の二を高くすることで、全体に低音の柔らかい響きが減り、硬質な響きになります。当時にしてみると、近代的な響きだったかもしれませんね。

人気の曲ですが、弾いてみるとなかなか難しいものです。練習していると、夏の夜の汗ばんだ不快な気持ちが漂ってくる気もします。「蚊が飛んでくるような」と表現された先生もいらっしゃいました。ちょっと不思議な落ち着かないところがあるのです。

でも、エアコンの効いた部屋で聴く分には、調弦が涼し気で硬質な音色になるので、涼やかに楽しめるのではないでしょうか。

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